「元気じゃないこころ」のお話(2) <コントロールできない心>
(1)なぜ不安になるのか
私たちは、どうして、自分がこうしようと思っていることをその通りにできないのでしょ
うか。それは、不安を持ってしまうからです。恋をしたときには、「もしかしたら相手は私
のことを嫌っているのではないか」といった不安にさいなまれます。スポーツやスピーチな
どでは、「失敗したらどうしよう」といった不安です。この不安が、私たちから自由を奪っ
ているのです。そして実は、これらが不安の本当の原因ではない場合が多いのです。
もし不安の本当の原因が「私のことを嫌っているのではないか」という不安なら「実際に聞
いてみなければわからない」と思えれば別に不安にならなくてもすむはずです。「失敗した
らどうしよう」は「失敗しても構わない」と思えれば、不安は消えるはずです。
ところが、不安を抱えている人にそんなことを言っても、ほとんどの場合ムダでしょう。不
安が解消できないのは、不安の本当の原因がわからないからです。
(2)記憶を否定する「抑圧」
では、どうして不安の原因がわからないのでしょうか。
答えは簡単です。不安の本当の原因となった出来事を思い出せないからです。これが精神分
析でいう「抑圧」です。こうした抑圧の原因となるような出来事は、ほとんどの場合、思春
期前までの幼少期に経験します。
たとえば幼少の頃、一生懸命何かに取り組んだのに失敗してしまった、というような経験は
誰にでもあるでしょう。そんなとき回りの人たちに暖かく励まされれば何も問題はありませ
ん。ところが、そこで嘲笑されたり、失望のため息をつかれたりすれば(と本人が感じれば)、
誰でも傷つくものです。特に、大切だと思っている親などにそうされた場合には、ひどく傷
ついてしまうでしょう。親に見捨てられた(嫌われた)と感じてしまうかもしれません。子
供にとって、親に見捨てられたという事実は、とてもつらく悲しいものです。
言語や思考が充分に発達した大人であれば、「今回は親に見捨てられるようなことをしてし
まったけれど、すぐに挽回しよう」などと考え、その傷ついた状況を解消することもできま
す。ところが子供は言語や思考が未発達なためそんな思考ができません。さらに、子供にと
って親の存在というのは絶対です。その親に見捨てられたという気持ちを持ち続けることは
至難の業でしょう。
そんなことから、子供は見捨てられてしまったという気持ちを、なかったこととして忘れよ
うとします。つまり抑圧です。
しかし抑圧という方法は、記憶の一部を無視または否定することですから、どうしても精神
的に不安定な状態になります。
(3)不安と脳の働き
さらに、記憶を否定しても、そのとき感じた不安やつらさ・悲しさは、しっかりと脳に記
憶されてしまいます。それは一種の防衛本能です。「この不安やつらさ・怖さはしっかりと
覚えていよう。そしてこれからも、同じような状況になったらその感情を呼び覚まして行動
にストップをかければ、つらい・悲しい思いをしなくても済むから安心だ」と脳は考えるの
です。
ですから「失敗したらどうしよう」という不安は、「あの時失敗して見捨てられたんだから、
また今度も失敗したら見捨てられるに違いない。そうなったらどうしよう。こわい、こわい」
と脳が感じる不安だと言えます。このために、「自信のないことはやらないことにしよう」
「言いたいけれどやめておこう」「自分の考えは抑えておこう」という自己決定をしてしま
うことになります。
脳は、このような一連の判断を瞬時に行います。自分で自覚できるのは「失敗したらどうし
よう」という不安だけ、ということになります。
(4)さまざまな幼少期のつらい体験
このように、幼少期のつらい体験を抑圧したとしても、その時に感じた不安感情はしっか
りと脳にインプットされます。特に幼少期には、言葉が未発達でうまく思考が働きません。
そのため、つらい状況に直面したときにそれを解消するような思考ができず、不安感情と、
それを回避しようとする防衛本能だけが記憶されることになります。
幼少期のつらい体験の抑圧は、その後の人生に大きな影響を及ぼします。
たとえば小学生や中学生のとき、ちょっとしたことで怒ったり泣き出したり、あるいは、あ
りふれた言葉なのにひどく傷ついてしまう子供が回りにいなかったでしょうか。
そうした子供は、過去にそのことに関係したつらい体験があると考えられます。そのせいで、
強い反応を示してしまうのです。
それだけではありません。その反応のせいで、回りの子供たちからさらに傷つけられたり敬
遠されたりして、また新たな心の傷をつくってしまうことになりがちです。
(5)心を解き放つカウンセリング
人前で話せなくなったり、大事な場面で失敗を繰り返したり、好きな異性から逃げてばかり
いたりすると、そんな不自由な自分自身をさげすんだり、否定したりするようになります。こ
の状態はとても苦しいものです。自分を変えたい、と悩んでしまいます。
でも、頭では分かっていてもどうにもコントロールできないのが私たちの心です。
カウンセリングとは、そんな悩みをお持ちの方々の心に寄り添いながら、さまざまな技法・手
法を使い、脳科学の理論も交えて、心を自由に解き放っていく過程を言います。さらに、コミ
ュニケーション力、生活適応力、セルフコントロール力などを身につけるガイダンスを行うこ
とも重要です。